GUIDE — 1-1
額の暗算 完全解説
ポーカーのサイズは常に「ポットの◯%」で語られます。でもテーブルで実際に動くのはbbという現金。 この往復——%を聞いてbbが浮かび、bbを見て%が浮かぶ——が全サイズ戦略の入口です。 九九と同じで、ここが遅いと後の全部が遅くなります。
1なぜ%とbbの往復が必要なのか
戦略書もソルバーも「1/3ポット」「75%」という比率の言葉で語ります。 比率は普遍だから(ポットが6bbでも60bbでも1/3は1/3)。 しかし実戦であなたがチップを押し出すときは「4bb」という絶対額。 この翻訳を毎回考えていたら、20秒の持ち時間はそれだけで消えます。
2分数で覚える — %は分数の別名
コツは%を分数に読み替えること。覚えるのはこの7行だけです:
| サイズ | 分数 | 暗算のかたち |
|---|---|---|
| 25% | 1/4 | 半分の半分 |
| 33% | 1/3 | 3で割る |
| 50% | 1/2 | 半分 |
| 66% | 2/3 | 3で割って2倍 |
| 75% | 3/4 | 半分+その半分 |
| 100% | 1 | そのまま |
| 150% | 3/2 | 全部+半分 |
例: ポット36bbの75%は?
- 1.75% = 3/4 と読み替える
- 2.半分 → 18
- 3.その半分 → 9
- 4.18 + 9
答え: 27bb
3レイズ額の公式 — コール分を忘れるな
プリフロップの3betやスクイーズでは、もう1つの公式が要ります。 基準は「オープン額の◯倍」ですが、既にコールした人の分を上乗せするのが定石です:
レイズ額 = オープン × 倍率 + オープン × コール人数
例: 3bbオープンにコール1人。4xなら 3×4 + 3×1 = 15bb
理由はシンプルで、コーラーが増えるほどポットが育ち、同じ倍率では相手に安いオッズを与えてしまうから。 スクイーズ(オープン+コールの後の3bet)が大きいのはこの上乗せの現れです。
4ひっかけは、この3つ
- 罠1: 隣のサイズとの取り違え
66%と75%、25%と33%。4択には必ず隣の分数の答えが並びます。「どの分数か」を先に声に出す。
- 罠2: コール分の足し忘れ
3xだけ計算して既コールを無視——レイズ問題の定番エラー。「テーブルに誰のチップが出ているか」を見る。
- 罠3: ポット+ベットの混同
「ベット後の合計」を答えてしまう。問われているのはベット額そのもの。
5実戦でこう使う
同じポット12bbでも、サイズの語彙があると選択肢が見える:
この3本の棒が瞬時に見えるようになると、次の技(1-2〜1-4)で学ぶ 「どの棒を選ぶべきか」の議論に、計算ではなく判断として参加できます。
6実戦のサイズ辞書 — 迷わないための標準値
プロは局面ごとに「まずこのサイズ」という初期値を持っています。計算する前に手が動く、その辞書がこれです(100bbディープの目安):
| 局面 | 標準サイズ | ねらい |
|---|---|---|
| プリフロップ・オープン | 2〜2.5bb | 後ろを1つに絞る |
| 3bet(IP) | 3x | SPRを5前後に作る |
| 3bet(OOP) | 4x | 位置不利を額で補う |
| レンジCB(ドライ) | 25〜33% | 全レンジを安く進める |
| バリューCB(ウェット) | 66〜75% | ドローに課金 |
| リバーのポラ | 75〜125% | 最大バリュー+ブラフ枠 |
この辞書はあくまで初期値。ここから型(2-2)とテクスチャ(2-3)で微調整します。「まず標準、次に補正」の二段構えが速さと正確さを両立させます。
7スタックが浅いとき — bbで考える瞬間
%思考が崩れる場面が1つだけあります。実効スタックがポットに対して浅いときです。残り20bb・ポット15bbで「75%(≒11bb)」と刻んでも、次で4bbしか残らず無意味。
8上達のコツ
🎯 練習の進め方
- ・まず分数7行(1/4・1/3・1/2・2/3・3/4・1・3/2)を、そらで言えるまで暗唱する
- ・ポット額を12・24・30・36bbと変えながら「75%は?」と自問→3秒で即答する反復を
- ・レイズ額は必ず「倍率ぶん+既コールぶん」と2項に分けて声に出す癖をつける
- ・昇格の目安: どのサイズも計算でなく“見えた”状態になったら 1-2(値札)へ進む
9一歩深く — なぜ実戦のサイズは数種類に集約するのか
理屈の上ではサイズは連続——37%でも61%でも打てます。それでも強者の実戦は33% / 50% / 75% / 125% あたりの数個に集約します。理由は2つ。
- ① サイズテルを消す(2-2): サイズを細かく散らすほど「このサイズはこの強さ」と紐づけられ読まれます。少数の型に畳めば、同じ75%にナッツもブラフも同居できる。
- ② 暗算の速度: ここで覚えた分数7行は、そのまま値札 b/(p+2b)(1-2)・原価 b/(p+b)(1-3)・ジオメトリック%(1-4)の入力になります。サイズが数種なら、その出力も数個の暗記で足りる。
つまり額の暗算は独立した計算ではなく、ピラー1〜3すべてが呼び出す共通ライブラリです。 「9bbが見える」状態を作っておくと、Combo Counter で数えた在庫(コンボ)に値段を付ける作業が、 考えるより先に手が動くようになります。
10よくある質問
この技を練習する人が実際につまずく疑問を、Q&A形式でまとめておきます。どれも「計算そのもの」より「計算をいつ・どの数字で使うか」の話——実戦で速く正しく動くための勘所です。
Q. 20秒の持ち時間では暗算が間に合いません。どうすれば?
二段構えにします。まずサイズ辞書(節6)の初期値で当たりをつけ、精密な額が要る時だけ分数(節2)で詰める。実戦の9割は「レンジCBは33%」「3betは3x」のような標準値で足り、1bb単位の精密計算が必要になるのはオールインが絡む刻みの局面だけです。タイムバンクは1ハンドに数回しか使えないので、暗算は「速い当たり→必要時だけ精密」と分業させるのがコツです。
Q. %とbb、結局どちらで考えるのが正解?
局面で使い分けます。フロップ以降は%——ポットが基準単位として自然で、%がそのまま相手のオッズ(1-2の値札)に直結するから。一方プリフロップとショートスタックはbb。オープンは「2.2bb」のように bb で定型化されていますし、SPRが1.5を切る局面(節7)では%で刻んでも意味が消えるので「入れる/入れない」の二択思考に戻ります。
Q. アンティやストラドルがあると計算がずれませんか?
ずれます。アンティはポットを底上げするので、同じ%でも絶対額が増える。実戦では「フロップに入った時点のポット総額」を一度だけ確定し、以降はその数字の%で考えれば混乱しません。アンティ入りのプリフロップは、オープンをやや大きく(2.2bb→2.5bb)する根拠にもなります——底が厚いぶん、後ろを降ろすのに必要な額が上がるからです。
Q. 相手のレイズ額から%を逆算するには?
レイズ額 ÷(コール後にできるポット)で出せます。例: ポット20に相手が15レイズ → 15 ÷ (20+15) = 約43%。これは値札(1-2)を出す前段の作業で、相手が打った%が分かれば、こちらのコールに必要な勝率も即座に見えてきます。
Q. 「ポット」と言われたら、それはベット後の額?前の額?
サイズの%を計算する分母は、必ず「自分が打つ前のポット」です。ポット20に「ポットベット」なら20を打つ(合計40ではなく)。一方で「ポットオッズ」や相手の必要勝率(1-2)を語るときの分母は、コールが入った後の最終ポットになる——同じ「ポット」でも、サイズを決める時と、オッズを語る時で基準が違います。この二つを混ぜると、値札が常に一段ずれます。まず「打つ前のポットの何%か」でサイズを決め、それから「最終ポットに対するオッズ」で相手の損得を読む、と順番を固定してください。
11失敗例の解剖 — スクイーズでコール分を足し忘れる
この技を知らない人が最も高くつく形でつまずくのが、レイズ額の「コール分の上乗せ」の省略です。実際のハンドで再現します。
失敗ハンド(100bbキャッシュ):
- ・CO が 2.5bb オープン、BTN と SB がコール。あなたは BB で K♠K♥
- ・「スクイーズは4倍」と機械的に 10bb にレイズ
- ・しかしポットは既に 2.5+2.5+2.5+0.5(SB残)=約8bb 育っている
- ・10bbのレイズは実質ポット比が小さすぎ、2人が好オッズでコールし4ウェイに
正しい額は 2.5×4 + 2.5×2(コール分)= 15bb。 足りなかった5bbが「レンジを絞れず、KKで不利なマルチウェイに突入した」原因です。KKはヘッズアップなら圧勝でも、4ウェイでは勝率が大きく削れる——たった一項の足し忘れが、手の価値を丸ごと目減りさせました。
12レイズ額の早見表 — コール人数で上乗せが変わる
プリフロップのレイズ額は「倍率ぶん+既コールぶん」でした(節3)。2.2bbオープンを基準に、コール人数別の標準額をまとめておきます。数える前に手が動く辞書です:
| 状況 | 計算 | レイズ額 |
|---|---|---|
| 3bet・コール0(IP) | 2.2×3 | 約6.6bb |
| 3bet・コール0(OOP) | 2.2×4 | 約9bb |
| スクイーズ・コール1 | 2.2×4+2.2×1 | 約11bb |
| スクイーズ・コール2 | 2.2×4+2.2×2 | 約13bb |
| 4bet(対3bet約7bb) | 7×2.2〜2.5 | 約16〜18bb |
コーラーが1人増えるごとに、上乗せはオープン額ぶん(ここでは約2.2bb)ずつ増える——この規則性さえ掴めば、あとは足し算だけです。IPで3betが小さめ(3x)でOOPで大きめ(4x)なのは、位置の不利を額で補ってSPRを揃えるため(1-1節6の辞書とも一致します)。
132本目のシナリオ — 1ハンドを通してbbで追う
%の往復が本当に効くのは、1つのストリートではなくハンド全体を通したときです。ポットが雪だるま式に育つ中で、毎ストリート「今のポットの何%か」を即座にbbへ翻訳できるか——具体例で追いましょう。
100bbキャッシュ・シングルレイズドポット:
- ・プリフロップ: あなた 2.5bb オープン、BB コール → ポット 約5.5bb
- ・フロップ 33%CB: 5.5 ÷ 3 ≒ 1.8bb。BB コール → ポット約9bb
- ・ターン 66%: 9 ÷ 3 × 2 = 6bb。BB コール → ポット約21bb
- ・リバー 75%: 21 の半分+その半分 ≒ 16bb
投じた合計は約 2.5+1.8+6+16 = 約26bb。 残りスタックは約72bb——リバーを打ってもまだ深く、次に大きなアクションが来ても付き合えます。%の言葉だけで打っていると「あといくら残っているか」が霧の中ですが、bbに翻訳し続ければ残弾がいつも見えている。これが1-4(ジオメトリック)や3-1(SPR)で必須の感覚です。
ここで大事なのは、各ストリートのサイズを「打った後の合計ポット」ではなく「打つ額そのもの」で捉えること(節4の罠3)。ターンの66%は「打ったら合計21bb」ではなく「6bbを足す」。この主語の取り違えは、リバーの残弾計算を丸ごと狂わせます。
14学習の地図の中で — この技はどこに繋がるか
額の暗算は独立した計算練習ではなく、ピラー1〜3すべてが呼び出す共通ライブラリです。ここで「9bbが見える」状態を作っておくと、後続の技が一気に軽くなります。
| 後続の技 | 額の暗算がどう効くか |
|---|---|
| 1-2 値札 | b/(p+2b) の b と p は、まずbbで見えていないと式に入れられない |
| 1-4 ジオメトリック | 「79%×3で100bb」はサイズ→bbの往復が瞬時でないと使えない |
| 3-1 SPR | 実効スタック÷ポットの割り算は、両者をbbで把握してから |
| Combo Counter(01) | 数えたコンボに「値段」を付ける最終工程がこの暗算 |
用語の確認をひとつ。SPR(Stack-to-Pot Ratio)=実効スタックがポットの何倍かを表す物差しで、深さの言葉です(3-1で詳解)。この割り算も、分子と分母をbbで即座に置けるかどうかで速さが決まります。額の暗算が遅いと、後の全部が遅くなる——最初の九九を疎かにしないでください。
15端数の丸め方 — 厳密さより速さを取る場面
実戦のポットはきれいな数字になりません。ポット13.5bbの75%は10.125bb——このまま打つ人はいません。ここで大切なのは「厳密な小数は不要、意図が伝わる整数に丸める」という割り切りです。10bbでも10.5bbでも、相手に与えるオッズはほぼ変わらない。1bb未満の精度に持ち時間を溶かすのは、コストに対して見返りがなさすぎます。
丸めの向きにも実戦的な指針があります。バリューは切り上げ、ブラフは切り下げ——と覚えておくと迷いません。バリューで打つなら1bb多く取れれば得ですし、ブラフなら1bb安く済ませたほうがリスクが減る。ただしこれを毎回やるとサイズが手の強さを漏らす(サイズテル)ので、あくまで「どちらでもいい端数を、わずかに得な方へ倒す」程度に留めます。両方を同じ整数(例: どちらも10bb)に揃えるのが基本で、丸めの向きを変えるのは相手が端数を読まない格下のときだけ、というのが安全な運用です。
もう一点、オンラインとライブで感覚が変わります。オンラインはチップが1枚単位で自由に置けますが、ライブは物理チップの単位(25・100など)に縛られる。ライブでは最初からチップの色に乗る額で考えると、置く動作まで速くなります。「75%=黒2枚と赤1枚」のように、%を金額でなくチップ枚数で覚えてしまうのが、ライブ最速の暗算法です。ディーラーがポットを崩す前に額を宣言できると、テンポの主導権もこちらに移ります。逆に、置いてから枚数を数え直す仕草は「サイズに自信がない=手が弱い」というテルにもなりかねません。額が先に見えていることは、正確さだけでなく振る舞いの落ち着きにも直結します。
