GUIDE — 1-4
ジオメトリック 完全解説
強い手を持ったとき、目標は明確です——リバーまでに実効スタックを全部入れる。 でも一発で押せば相手は降り、細かく刻めば入り切らない。 毎ストリート「同じ%」で打って自然にオールインへ届く、その最適比率がジオメトリック・サイジングです。
1ポットは雪だるま — (1+2e)の魔法
ポットの e倍(例: e=0.75)を打って呼ばれると、ポットには あなたのベットと相手のコールが積まれます:
新しいポット = p × ( 1 + 2e )
75%ポットで打って呼ばれると、ポットは 1+2×0.75 = 2.5倍に育つ
この成長は複利です。同じ75%でも、2発目は育ったポットの75%なので絶対額はずっと大きい。 「等比(ジオメトリック)」の名前はここから来ています。 雪だるまの成長を織り込んで逆算すると、「SPRをn発で入れ切る一定比率e」が一意に決まります。
2厳密表 — この8行を体に入れる
| SPR | 残り | 各ベット |
|---|---|---|
| SPR 1 | 1発 | 100% |
| SPR 2 | 1発 | 200%(オーバーベット) |
| SPR 2 | 2発 | 約62% |
| SPR 4 | 2発 | 100% |
| SPR 4 | 3発 | 約54% |
| SPR 6 | 2発 | 約130% |
| SPR 8 | 3発 | 約79% |
| SPR 13 | 3発 | 100%(覚えやすい!) |
3なぜ「等分」ではダメなのか
検算: SPR4を2発で。等分(各200%…ではなく各2SPRずつ?)と比較
- 1.等分の発想: 4 ÷ 2 = 各「2ポット分」→ 1発目に200%ベット!?
- 2.実際は1発目のポットベット(100%)でポットが3倍に育つ
- 3.2発目は育ったポットの100% = 元の3ポット分
- 4.合計 1 + 3 = 4ポット分 = SPR4 ちょうど ✓
答え: 成長を織り込むと各100%で足りる
等分の誤解はドリルの誤答にも毎回混ぜてあります。ポットは静止していない——これがこの技の心臓部です。
4ひっかけは、この3つ
- 罠1: 等分割の%
SPR÷ストリート数×100。成長を無視した値が4択に並ぶ。
- 罠2: 発数の取り違え
「ターンから2発」と「フロップから3発」で答えは大きく違う。残りストリート数を指差し確認。
- 罠3: 常にジオメトリックが正解だと思う
これは「入れ切りたい」時の理論値。相手が降りすぎるなら小さく刻む方が、コールが下手ならオーバーベットの方が稼げる。基準線であって命令ではない。
5実戦でこう使う — フロップで「リバーの絵」を描く
セットをフロップで引いたとします。SPRを見る(例: 8)→ 表を引く(3発×約79%)→「79%・79%・79%で自然にオールイン」という映画の脚本が完成。 あとは各ストリートで上映するだけです。 脚本なしで打つ人は、リバーで「残りが多すぎて呼ばれない額」か「少なすぎて取り損ねる額」に必ず着地します。 この逆算の習慣は 3-3(ストリート設計)でさらに実戦形式で鍛えます。
6なぜ一定比率が最適なのか — 直感の証明
「なぜ毎回同じ%が最適で、大小をバラつかせない方がいいのか」。答えは相手を常に無差別に置き続けるためです。
- ① 一定比率=一定のブラフ率: 同じ%なら各ストリートの適正ブラフ率も一定(b/(p+2b))。相手はどのストリートでも搾取の糸口をつかめない。
- ② 最大の総取り: 同じ額を入れるなら、複利で膨らむポットに乗せ続けるのが総バリュー最大。
- ③ 読まれない: サイズを変えないから、強い時も弱い時も同じ絵。サイズテル(2-2の罠)が消える。
7実戦フロー — SPRを見て脚本を書く3ステップ
フロップでセットを引いた瞬間の、頭の中の3秒:
| ステップ | やること | 例(SPR8のセット) |
|---|---|---|
| ① 深さ | SPRを暗算(3-1) | SPR8 |
| ② 発数 | 残りストリート数を確認 | フロップ→3発 |
| ③ 脚本 | 表を引いて%を確定 | 79%・79%・79% |
この脚本が書けていれば、ターンもリバーも「考える」必要はありません。前もって決めた%を上映するだけ。悩みは常にフロップに前倒しする——それがプランニングの本質です(3-3で完成させます)。
8上達のコツ
🎯 練習の進め方
- ・厳密表8行、特に SPR4/2発=100% と SPR13/3発=100% を最優先で暗記する
- ・「等分(SPR÷発数)」の誤答を自分で作り、なぜ入れすぎ/不足になるかを毎回検算する
- ・実戦では ①SPRを暗算 ②残り発数を確認 ③表を引く の3秒ルーティンで脚本化する
- ・昇格の目安: SPRと発数を言われて%が即答でき、なぜ一定%かを説明できたら 3-3 へ
9一歩深く — 雪だるまを式で解く(黄金比が出る)
一定比率eを毎ストリート打つと、ポットは1発ごとに(1+2e)倍に育ちます。 その等比和がちょうどSPRに等しくなるeが、n発で入れ切る唯一解です:
e × Σ (1 + 2e)^i = SPR
i = 0 … n−1。この式を満たす一定比率 e が、n発でSPRちょうどを入れ切る
SPR13・3発なら e=1(=100%)で検算: 1 + 3 + 9 = 13 ✓。 SPR4・2発も e=1 で 1 + 3 = 4 ✓。「ポット・ポット・ポットで終わる」美しさは、この式の帰結です。
面白いのが SPR2・2発。式は e² + e − 1 = 0 となり、 解は e = (√5 − 1) / 2 ≒ 0.618——黄金比そのもの(約62%)が現れます。 サイズ理論の底に古典的な数がいるのは、いつ見ても気持ちのいい事実です。
ただしこれは「相手が無条件でついてくる」理論上限。実際は各バレルが相手にMDF(Combo Counter 3-2)を課し、 相手が降りすぎるなら小さく刻み、コールが緩いならオーバーベットへ寄せます—— その逸脱の設計が Exploit Vision(06)です。ジオメトリックは基準線であって、命令ではありません。
10実戦シナリオ2本目 — ジオメトリックを『あえて外す』
§5・§7は脚本どおり打つ話でした。上達の証は、脚本を意図的に外せることです(罠3)。 ジオメトリックは基準線であって命令ではない——相手のタイプで最適サイズがどうずれるかを数値で見ます。 SPR8のセット、脚本は「79%×3発」。相手が2タイプの時、どう変えるか。
相手依存でジオメトリックから逸脱する
- 1.基準脚本: 79%・79%・79%(相手が理論どおりついてくる前提)
- 2.降りすぎる相手: 79%だと途中で降りられ、スタックが入らない → 小さく刻んで釣る(33%×複数)
- 3.コールが緩いステーション: 79%では取り足りない → オーバーベット(150%)で最大額を搾取
- 4.どちらも『入れ切る』目的は同じだが、相手のフォールド率で最適サイズが動く
答え: 降りすぎ相手には小さく、緩い相手には大きく——脚本を相手で歪める
ジオメトリックが与えるのは「相手が理論的に完璧なら」の最適解です。 しかし実際の相手はほぼ完璧ではない。降りすぎる相手に79%を3発ぶつけると、 ターンで降りられて育つはずのポットが途中で止まる——ならば小さく刻んで最後までついてこさせる方が総取りは大きい。 逆にコールステーションには、ジオメトリックの上限を超えたオーバーベットの方が稼げる。 §9で触れた「各バレルが相手にMDFを課す」理論値を知っているからこそ、そこからの逸脱幅を意図的に設計できる。 基準線を引けない人の「なんとなく大きめ/小さめ」と、基準を知った上での逸脱は、見た目が同じでも再現性が全く違います。これがExploit Vision(06)への入口です。
11失敗例の解剖 — SPRを発数で「等分」する
ジオメトリック最大の失点は、罠1(等分割)です。ポットが育つ複利を無視した誤りを解剖します。
問題: SPR6・残り2ストリート。各ベットは何%?
- 1.この人の計算: 『SPR6を2発で割る → 各3ポット分 → 各300%』
- 2.見落とし: 1発目を打つとポットが育ち、2発目は育ったポットへの%
- 3.正しくは厳密表: SPR6・2発 = 約130%(各130%)
- 4.検算: 1発目130%でポット 1+2×1.3=3.6倍。2発目130%=3.6×1.3=4.68。合計 1.3+4.68≒6 ✓
答え: 約130%(等分の300%はポットの成長を無視した過大値)
この誤りの本質は、ポットを静止したものとして扱ったことです(§3の心臓部)。 「SPR6を2発で割れば各3ポット分」という直感は、1発目でポットが3.6倍に膨らむ複利を忘れている。 実際は1発目でポットが大きく育つので、2発目は同じ130%でも絶対額はずっと大きくなり、 少ない%で足りる。等分の発想(SPR÷発数)は必ずオーバーベット方向にずれ、相手が到底呼べない額を打って、育つはずのポットを自分で潰す。 対策は§9の等比和の式か、厳密表8行の暗記。特に「SPR4/2発=100%」「SPR13/3発=100%」の2つを基準に持てば、 他のSPRも「それより少し大きい/小さい」と当たりがつき、等分の罠に落ちません。
12よくある質問
Q. 厳密表8行、全部覚えないとダメ?
まず2つだけで十分です。「SPR4を2発で各100%」「SPR13(≒100bbのSRP)を3発で各100%」—— この2つのアンカーがあれば、他は「それより深ければ%を上げる、浅ければ下げる」で当たりがつく。 ポット・ポット・ポットで100bbが入る、が実戦最頻出(§2)。 残り6行は繰り返すうちに定着します。全暗記より、2つの基準の反射化が先です。
Q. なぜ毎回「同じ%」がいいの?大小を混ぜたくなります
§6の3つの理由です。①一定%=一定ブラフ率で相手を常に無差別に置ける、 ②複利で膨らむポットに乗せ続けるのが総バリュー最大、③サイズを変えないからサイズテルが消える。 大小を混ぜると、大きい時だけ強い・小さい時だけ弱いというパターンが出て読まれる。 強い手の初期設定として一定%が優秀なのは、稼ぎと秘匿を同時に満たすからです。
Q. ジオメトリックはいつ「使わない」べき?
相手が理論から大きくずれている時です(§10)。降りすぎる相手には小さく刻んで釣り、 コールが緩い相手にはオーバーベットで搾取。ジオメトリックは「相手が完璧なら」の基準線で、 現実の相手のフォールド率に合わせて逸脱するのが上級。 ただし基準を知らずに外すのはただのブレ。基準線を引けて初めて、意図的な逸脱が戦略になります。
Q. 発数は「フロップから」で数える?「今から」で数える?
今から残っているストリート数で数えます(罠2)。 フロップにいるなら3発(フロップ・ターン・リバー)、ターンにいるなら2発。 「ターンから2発」と「フロップから3発」ではSPRが同じでも%が大きく変わるので、 毎回「あと何回打てるか」を指差し確認する。脚本を書くのはフロップですが、 各時点で残り発数を再確認すれば、途中参加のプランでも正しい%が出せます。
Q. なぜSPR2の2発で「黄金比」が出るの?偶然?
偶然ではなく必然です。SPR2を2発で入れ切る式は e²+e−1=0 となり、 その正の解が(√5−1)/2 ≒ 0.618=黄金比(§9)。 「1発目で作るポット」と「全体」の比が、ちょうど黄金比の自己相似の関係になるため現れます。 実戦的には「SPR2の2発は約62%」と覚えれば十分ですが、 サイズ理論の底に古典的な数が座っているのは、この技の数理的な美しさの証です。
Q. ブラフもジオメトリックで打つの?
はい、バリューと同じサイズ列でブラフも打つのが基本です(サイズテル回避)。 バリューが79%×3発でオールインへ向かうなら、ブラフも同じ79%×3発でなぞり、 ストリートごとに本数だけ間引く(Bluff Builder 3-3の漏斗)。 ジオメトリックはバリューの脚本であると同時に、その脚本にブラフを紛れ込ませる隠れ蓑でもある。 攻めレンジ全体が同じサイズ列に乗ることで、相手はサイズから手の強弱を読めなくなります。
