GUIDE — 3-3
ストリート設計 完全解説
最終関門です。新しい公式はありません—— 額の暗算、値札、原価、ジオメトリック、型、テクスチャ、客、SPR、コミット。 10の道具を1本のハンドの時間軸に並べ、 フロップの1発目を打つ前にリバーまでの脚本を書きます。
1逆再生の思考 — 映画はラストシーンから
下手なプレイヤーはフロップ→ターン→リバーと順方向に考え、 リバーで「残りが中途半端」に気づきます。設計者は逆です:
逆再生テンプレート(バリューの場合)
- 1.① ゴール確認: この手はコミットする手か?(3-2)→ Yesなら全額、Noなら2発で止める
- 2.② 深さ測定: SPRは?(3-1)
- 3.③ 脚本作成: SPR→ジオメトリック表→各ストリートの%(1-4)
- 4.④ 検品: その%の客はいるか?型・テクスチャと矛盾しないか?(2-x)
答え: 1発目を打つ前に、3発すべてのサイズが決まっている状態
2ノンコミット側の設計 — 止まり所を先に決める
「入れ切らない手」にも脚本が要ります。SPR9のTPTKなら 「フロップ33%・ターン66%・リバーはチェック管理」のように、撤退ラインまで含めて先に決める。 設計のない「様子見ベット」の連続は、リバーで巨大な判断を裸で迎える羽目になります。
| 手の格(3-2の判定) | 脚本の型 |
|---|---|
| コミット級 | ジオメトリック%×残り発数(1-4の表) |
| 2発止まりの価値 | 小→中サイズ2発+リバー判断(値札は2-4の客で決める) |
| ブラフ | バリューの脚本と同じサイズ列をなぞる(1-3の原価で本数管理) |
3ひっかけは、この3つ
- 罠1: 等分割
SPR÷3で「均等に」——ポットの複利成長を無視。1-4の誤答がここでも主役。
- 罠2: 発数の数え間違い
ターンから設計するなら残り2発。フロップの感覚のまま3発の%を選ばない。
- 罠3: 脚本の固執
設計は前提(テクスチャ・相手のアクション)が変われば書き直す。完成札が落ちたのに79%を打ち続けるのは設計でなく硬直。
4通し実戦例 — 1ハンドを設計しきる
すべての道具を1本のハンドで使います。CO 100bb、あなたはA♠A♥でオープン → BBコール。フロップ Q♠ 7♦ 2♣。
フロップ前に脚本を書く
- 1.① ゴール: AAはコミット級(3-2)→ 全額入れる方針
- 2.② 深さ: SRPなのでSPR≒9(3-1)
- 3.③ 脚本: SPR9・3発 → ジオメトリック約79%×3(1-4)
- 4.④ 検品: Q72rはレイザー有利のドライ盤。型はマージ寄りだが、AAで入れ切るならポラ的に大きく打ってよい(2-1/2-2)
答え: フロップ約79%・ターン約79%・リバー約79%で自然にオールイン
5上達のコツ
🎯 練習の進め方
- ・逆再生テンプレの4問(ゴール→深さ→脚本→検品)を、どのハンドでも順番に自問する
- ・バリューの脚本を書いたら、同じサイズ列をなぞるブラフを必ずセットで用意する
- ・ターン・リバーで“新しく考える”回数を数え、それをゼロに近づけるのが上達の指標
- ・皆伝の目安: 1本のハンドをフロップ前に3発とも設計でき、前提が変われば書き直せること
6実戦でこう使う — ブラフ側の脚本を書く
設計はバリューだけのものではありません。BTN 100bb で T♠9♠、BBがコール、 フロップ 7♠ 6♦ 2♣——オープンエンド+バックドアフラッシュのセミブラフです。 コミット級ではないこの手にも、フロップ前に脚本を書きます。
ノンコミットの逆再生
- 1.① ゴール: コミット手ではない(3-2)→ 入れ切らない・撤退ラインを先に引く
- 2.② 深さ: SRPなのでSPR≒9(3-1)
- 3.③ 脚本: フロップ33%(安く広く+エクイティ)→ ターン完成/好牌で66-75%バレル
- 4.④ 検品: 完成しなかったブランクリバーは、ブロッカー次第でポラのブラフに(1-3の原価で本数管理)
答え: フロップ33%・ターン条件付き66-75%・リバーは撤退かポラ、を打つ前に決める
7一歩深く — なぜ「逆再生」が正しいのか
リバーから逆算する思考には、ゲーム理論の名前がついています——後ろ向き帰納法(backward induction)。 最終地点(オールインするか否か)を先に確定させ、そこから各ストリートの最適手を1つずつ手前へ埋めていく。 順方向に打ってリバーで辻褄を合わせる人が「残り中途半端」に嵌るのは、終点を決めずに歩き出すからです。
もう一段。設計は一本道ではなく分岐木です。 各ストリートで相手のアクション(降り/コール/レイズ)ごとに枝が分かれ、 あなたはその枝すべてに答えを用意しておく。「レイズされたら?」に打つ前から答えられるのが設計、 その場で初めて考えるのが事故です。
この木は、相手側から描けば Hand Reader(02)・Bluff Hunter(03)・Bluff Builder(04)の景色になります。 あなたが脚本を書くとき、相手も同じ木を反対側から書いている—— サイズが会話だというのは、この二本の木が同じ盤面で交わるという意味です。
8通し実戦例3本目 — ターンで脚本を書き直す
§4(バリュー)§6(ブラフ)は最初に書いた脚本どおり進む例でした。実戦の設計力は、前提が変わった時に書き直せるかで決まります(罠3)。 BTN 100bb で K♥K♦、フロップ Q♠ 8♠ 3♦、BBコール。最初の脚本と、ターンでの再設計を追います。
フロップの脚本 → ターンで♠完成の書き直し
- 1.フロップ脚本: KKはオーバーペア。SPR9・3発でジオメトリック約79%×3の予定
- 2.①ゴール: 入れ切り方針で1発目79%を実行
- 3.ターン A♠ 到来: フラッシュ完成+オーバーカードAで前提が激変(§2-3の動的化)
- 4.書き直し: KKは2番手の危険。79%継続をやめ、チェックで様子見/薄い価値の管理へ降格
答え: ターンで脚本を破棄・再設計(79%×3の硬直継続は事故)
ここで学んでほしいのは、脚本は契約だが、前提が変われば再交渉するということです(§4のPoint)。 フロップでKKに79%×3の脚本を書いたのは正しい。しかしターンでA♠が落ちてフラッシュもオーバーカードも同時に現れたら、 KKの相対強度は「盤面2番手」に転落する——ここで脚本に固執して79%を打ち続けるのは、設計ではなく硬直(罠3)です。 設計の本質は「決めておくこと」と「前提が変われば捨てること」の両立。 §7の分岐木でいえば、A♠という枝は最初から想定しておくべき分岐で、優れた設計者は「このカードが落ちたら脚本を捨てる」というトリガーもフロップ時点で決めている。 書き直しは敗北ではなく、設計の一部です。
9失敗例の解剖 — 順方向に打ってリバーで詰む
ストリート設計を学ぶ前の最も一般的な失点は、逆再生をせず順方向に打つことです。 終点を決めずに歩き出す誤りを解剖します。
問題: SPR9のセット。フロップから『とりあえず2/3』で打ち始めた結果は?
- 1.フロップ2/3(約66%): ポットが 1+2×0.66=2.3倍に育つ
- 2.ターンも『とりあえず2/3』: さらに育つが、まだスタックは大きく残る
- 3.リバー: 残りスタックがポットに対して中途半端 → オールインが不自然な額に
- 4.= 入れ切れず取り損ねる or 突然の過大ジャムで降ろす
答え: 逆再生していれば SPR9・3発=各79% と分かり、綺麗に入り切った
この失点の本質は、終点(オールインの額)を決めずにフロップを打ったことです(§7の後ろ向き帰納法の逆)。 「とりあえず2/3」を3回続けると、ポットの複利成長が各回で異なるため、リバーで残りスタックが中途半端になる—— セットという最強級の手なのに、入れ切れずバリューを取り逃がす。 正しくは§1の逆再生: まず「入れ切る」とゴールを決め、SPR9・3発なら各79%と脚本を確定してからフロップを打つ。 そうすれば3発目が自然にオールインへ着地する。悩みはフロップに前倒しし、ターン・リバーは上映するだけ—— 順方向に打つ人がリバーで巨大な判断を裸で迎えるのは、終点を決めずに歩き出したからです。
10よくある質問
Q. なぜフロップの時点でリバーまで決めるの?その場で考えては?
その場で考えるとリバーで残りが中途半端になるからです(§9)。 ポットは複利で育つので、各ストリートの最適%は最初から連動している。 フロップで「79%×3で入り切る」と分かっていれば、ターン・リバーは上映するだけ。 §7の後ろ向き帰納法——終点(オールイン)を先に確定し、そこから手前へ埋める——が、中途半端を構造的に防ぎます。
Q. 脚本を書いても、途中で書き直すなら意味がないのでは?
意味は大きいです。§8のとおり、脚本があるからこそ「何が変わったら書き直すか」のトリガーが明確になる。 A♠でフラッシュ完成、という枝は最初から想定内で、そこに来たら脚本破棄と決めておける。 脚本なしで打つ人は、前提が変わったことにすら気づかず79%を打ち続ける。 書き直しは設計の一部であって、設計が無駄という意味ではありません。
Q. ノンコミット(入れ切らない手)にも脚本が要るの?
むしろ必須です(§2)。コミット手は「全額入れる」で終点が自明ですが、 ノンコミット手は「どこで止まるか(撤退ライン)」を先に決めないと、 リバーで巨大な判断を裸で迎える。「フロップ33%・ターン66%・リバーはチェック管理」のように、 止まり所まで含めて設計する。撤退ラインを先に引くのは弱さでなく、判断を前倒しする強さです。
Q. ブラフの脚本は、バリューとどう揃える?
同じサイズ列をなぞります(§6)。バリューが79%×3発なら、ブラフも同じ79%×3発で、 ストリートごとに本数だけ間引く(Bluff Builder 3-3の漏斗、原価で本数管理)。 サイズを揃えるから相手はサイズで手の強弱を読めない。 設計とは、バリューの脚本を書いたら必ず同じサイズ列のブラフをセットで用意すること。片方だけではサイズテルが生まれます。
Q. 相手がレイズしてきた時の枝も、全部用意するの?
主要な枝は用意します。§7のとおり設計は一本道でなく分岐木—— 各ストリートで相手の降り/コール/レイズごとに枝が分かれ、「レイズされたら入れるか降りるか」を打つ前に答えておく。 全ての枝を精密にとは言いませんが、少なくとも「レイズ対応」だけは1発目を打つ前に決めておく(コミット判定 3-2)。 その場で初めて考えるのが事故の親です。
Q. この設計思考は、相手を読む時にも使える?
使えます。§7のとおり、あなたが描く分岐木は相手側から見ればHand Reader・Bluff Hunter・Bluff Builderの景色。 自分が「このサイズ列で入れ切る脚本」を書けるなら、相手のサイズ列からも相手の脚本を逆算できる。 サイズが会話だというのは、あなたと相手が同じ盤面で二本の木を描き、それが交わるという意味です。 打つ側の設計を極めることは、そのまま受ける側の読みの精度になります。
