GUIDE — 1-2
相手に与えるオッズ 完全解説
ベットは攻撃であると同時に、相手への値札です。 あなたがサイズを決めた瞬間、「相手がコールするのに必要な勝率」も自動的に決まる。 この値札を読めない人は、自分が何を売っているのか知らずに商売をしています。
1値札のしくみ — 相手の損益分岐
ポットp、あなたのベットb。相手はコールにbを払い、勝てばp+bを受け取ります。 相手のコールがちょうど損益ゼロになる勝率が「必要勝率」:
必要勝率 = b ÷ ( p + 2b )
分母は「最終ポット」= 元のポット+あなたのb+相手のコールb
つまり大きく打つほど、相手は高い勝率を要求される=弱い手が続行できなくなる。 サイズとは「相手のレンジをどこまで削るか」の設定ダイヤルなのです。
24点セット — この表が全ての基準線
検算を1回だけ手でやっておくと忘れません。ポットベット(p=b)なら b/(p+2b) = 1/3 = 33%。「ポットベットは33%の値札」——これが最重要の1行です。
3実際の解き方
例1: ポット30にベット30
- 1.b/p = 1(ポットベット)
- 2.表から即答
答え: 33%
例2: ポット60にベット120
- 1.b/p = 2(2倍ポット)
- 2.120 ÷ (60+240) = 120/300
答え: 40%
4ひっかけは、この3つ
- 罠1: b/(p+b)との混同
分母の2bをbにすると1-3のFE式になる。「相手はコール分を追加してから戦う→分母に2b」で覚える。
- 罠2: MDFとの混同
p/(p+b)は守る側のレンジ全体の話。1ハンドのコール可否はこの必要勝率。主語が違う。
- 罠3: 補数を答える
33%と67%。「必要な勝率」を聞かれているのか確認。
5実戦でこう使う — ドローに宿題を出す
相手がフラッシュドロー(勝率約36%)と読んだら、 36%より高い値札を付ければドローのコールは即座に赤字になります。 表を見ると2倍ポット(40%)でようやくFDが宿題超過—— 「ドローを完全に締め出すのは意外と高くつく」という相場観も、この表から読み取れます。
※ 実際はインプライドオッズ(完成後に追加で取れる分)があるので、値札はさらに割引されて見えています。 だからこそ攻める側は「完全排除」でなく「割高な続行」を強いる発想が現実的です。
6値札は割引される — インプライドオッズ
b/(p+2b)は「今このポットだけ」の値札です。でも相手がセットやフラッシュを完成させたら、次のストリートで追加のチップを取れる。この将来収入を見込んだ割引がインプライドオッズです。
| 状況 | 値札の見え方 | 理由 |
|---|---|---|
| 深いスタック・セットドロー | 実質より安い | 完成後に大きく取れる |
| 浅いスタック | 表示どおり | 完成しても取る先がない |
| 丸見えのドロー(3枚同スート) | 表示より高い | 完成すると相手が降り追加を取れない |
だから打つ側は「完全排除」を狙わず、割高な続行を強いるのが現実解。表の値札に、深さと隠しやすさの補正を掛けて読むのが上級者の目です。
7サイズと排除レンジの対応 — 早見で終わらせない
値札を出せたら、次は「その値札で誰が消えるか」を絵にします。相手の必要勝率を超えないハンドは(理論上)降ります:
| あなたのサイズ | 相手の必要勝率 | 降りるゾーン |
|---|---|---|
| 1/3 pot | 20% | 完全なエアのみ(ガットショット以下) |
| pot | 33% | 弱ペア・Aハイまで |
| 2x pot | 40% | 中ペア・弱いキャッチャーも |
この対応が身につくと、1-2は「%を出す計算」から「レンジを削る操作」に昇格します。サイズは、相手のレンジに引くはさみの角度です。
8上達のコツ
🎯 練習の進め方
- ・4点セット(20/25/33/40)を b/(p+2b) で1回だけ手計算して検算→以後は暗記に切り替える
- ・「相手の話=分母2b、自分のブラフ=分母1b(1-3)、守る割合=MDF(別式)」の三点を毎回区別する
- ・サイズを見たら“誰が降りるゾーンに入るか”までワンセットで言う癖を
- ・昇格の目安: サイズ→必要勝率→排除レンジが一息で言えたら 1-3 へ
9一歩深く — なぜ「必要勝率50%」は作れないのか
クイズで触れたとおり、どれだけ大きく打っても相手の必要勝率は50%に届きません。 b/(p+2b) で b を無限に飛ばすと分母も同じ速さで伸び、値は上から50%に漸近するだけ——相手もまた、自分が争うポットを勝ち取れるからです。 値札には構造的な天井がある。これを知っていると「ドローを完全排除」という発想が いかに割高か(1-2の実戦節)が腑に落ちます。
もう一段。相手の必要勝率 b/(p+2b) は、じつは均衡であなたが打つべき適正ブラフ率と同じ数字です。 ポットベットなら 33%——「相手が33%の勝率でインディファレント(無差別)になる」ことと 「バリュー2:ブラフ1で打つ」ことは、同じ天秤の両皿。攻める側のブラフ本数管理が Bluff Builder(04)、 受ける側のキャッチ判断が Bluff Hunter(03)で、どちらもこの1本の分数から生えています。
10よくある質問
値札の式そのものより、「いつ・どの数字と比べるか」でつまずく人が多い技です。実際に出る疑問をQ&Aでまとめます。
Q. 実戦で毎回 b/(p+2b) を計算する時間がありません。
計算しなくていいように4点セット(1/3→20%・1/2→25%・pot→33%・2x→40%)を暗記するのがこの技の主旨です。中間のサイズは両隣から補間します。66%なら25%と33%の間で「約28%」、75%なら「約30%」——±1%の誤差は実戦の判断を変えません。式を使うのは、練習で表を検算する時と、150%超のような表の外のサイズが来た時だけです。
Q. 相手が値札を無視してコールしてきます。この式は無意味では?
むしろ逆で、値札は相手のミスを金額に換算する物差しになります。必要勝率30%の値札に、勝率20%の手でコールする相手は、コール1回ごとに理論上の損を積んでいる——その損はすべてあなたの長期利益です。値札どおりに動かない相手には「値札を守らせる」必要はありません。ズレの方向(コールしすぎ/降りすぎ)を観察して、バリューを太くするかブラフを増やすかを切り替える。これが Exploit Vision(06)の入口です。
Q. 値札と比べる「相手の勝率」はどうやって見積もるのですか?
ドローならアウツ×4/×2の法則で十分です。アウツ(引けば勝てる残りカード)の枚数を数え、フロップからリバーまで2枚見るなら×4、ターンから1枚なら×2で勝率%の近似になります。FD(9アウツ)はフロップで約36%・ターンで約18%、OESD(8アウツ)は約32%/16%。この2つの掛け算と4点セットを組み合わせれば、値札との比較が暗算で完結します。
Q. レイズされた側の必要勝率はどう計算しますか?
式は同じで、追加で払う額 ÷ 最終ポットです。例: ポット20にあなたが15ベット、相手が45にレイズ。あなたの追加コールは30で、最終ポットは 20+45+45=110。必要勝率は 30÷110 ≒ 27%。自分が先に入れた15はもうポットの一部(サンクコスト)として扱うのがポイントで、「もったいないから」と自分のベット分を引いて計算すると、値札が甘く見えて誤コールが増えます。
Q. 4点セットの間のサイズ(例: 60%)を打たれたら、暗算が止まります。
止まってよいのは1秒までです。60%は50%(25%)と66%(約28%)に挟まれているので「26〜27%あたり」と即断する——実戦の判断で2%の精度が結論を変える局面はほとんどありません。むしろ危険なのは、精密に計算しようとしてタンクした時間そのものがテルになること。ドローでのコールに長考すれば、相手はあなたの手を絞り込みます。「近い方の点+α」で即答し、精度は練習場で上げる。実戦は暗記と補間で戦う場所です。
11失敗例の解剖 — ドローだらけの盤で20%の値札
この技を知らない人がやりがちな失敗を、数字ごと再現します。値札が安すぎる、それだけで1本のハンドが静かに壊れていく実例です。
失敗ハンド(100bbキャッシュ):
- ・BTNのあなたが A♦A♣ でオープン、BBコール。フロップ J♠ T♠ 8♥(ポット5.5bb)
- ・「AAだしCBは33%でしょ」と 1.8bb(必要勝率20%の値札)
- ・BBのQ♠9♠(ストレート+FD級のコンボドロー、勝率50%超)は大喜びでコール——20%の宿題に50%の学力
- ・ターン 2♠ でフラッシュ完成。BBのチェックレイズに AA は身動きが取れず大損
間違いはターンではなくフロップの値札にありました。J T 8 ツートーンは相手レンジの大半が何かしらのドローを持つ盤面。ここでの正解は75%前後(必要勝率約30%)で、それでも強いドローは残りますが、弱いガットショット(約16%)や裏目のペアは課金に耐えられなくなる。33%の値札は「全ドローに無料同然の続行を許す」設定ミスだったのです。サイズはボードのドロー密度と常にセットで決めます(2-3 テクスチャで体系化)。
12拡張早見表 — 値札とドローの学力対決
4点セットの値札と、代表的なドローの勝率(アウツ×4/×2)を1枚に並べると、「どのサイズがどのドローを黒字コールさせないか」が一目で読めます:
| ドロー(アウツ) | フロップ勝率 | ターン勝率 | 課金に耐えるサイズの目安 |
|---|---|---|---|
| ガットショット(4) | 約16% | 約8% | 1/3でも既に割高。ターンはどのサイズでも赤字 |
| OESD(8) | 約32% | 約16% | フロップはpot未満なら続行可。ターンは1/3で限界 |
| FD(9) | 約36% | 約18% | フロップは2xでようやく宿題超過。ターンは1/3が境界 |
| コンボドロー(12+) | 約45%〜 | 約24%〜 | どのサイズにも耐える。排除でなく課金の対象 |
読み取るべきは2つ。第一に、フロップとターンでドローの学力は半減する——同じFDでも、フロップで排除できないサイズがターンでは十分機能します。「ターンの2発目でサイズを上げる」慣習は、この半減を突く動きです。第二に、コンボドロー級は値札で止まらない。止まらない相手は排除でなく最大課金の対象——勝率で上回っている限り、呼ばれるほど利益が積まれます。
132本目のシナリオ — マルチウェイでは値札が安売りされる
ヘッズアップの値札はここまでの通りですが、3人以上のポットでは同じサイズでも値札が実質的に安くなります。あなたがCOで75%(必要勝率約30%)を打ち、BTNがコールしたとしましょう。その後ろのBBに提示されるオッズは、もう30%ではありません——ポットにはBTNのコール分が積まれ、BBの必要勝率は約23%まで下がります(例: ポット10に7.5ベット+7.5コール → BBは 7.5÷(10+7.5+7.5+7.5) ≒ 23%)。
つまりマルチウェイでは、誰かがコールするたびに後続への値札が勝手に値引きされる。ドローを締め出したいなら、その値引きを見込んでヘッズアップより一段大きいサイズが要ります。「マルチウェイは大きめに」という格言の根拠は度胸ではなく、この玉突きのオッズ計算です。逆に自分が最後尾でドローを持っているなら、前のコールを待ってから安くなった値札で乗る——ポジションの価値が、ここでも数字で現れます。目安として、コーラーが1人挟まるごとに必要勝率はおよそ5〜7ポイント下がる——3人目に回る頃には、potベットですら1/2ベット並みの安売りになっていると考えてください。
14値札を「受ける側」で使う — コール判断の実務
ここまで値札を「付ける側」で語ってきましたが、同じ数字はコールする側の武器でもあります。相手のベットを見た瞬間の手順は3つ。①サイズをポット比に直す(1-1の逆算: ベット額÷打たれる前のポット)。②4点セットから自分の必要勝率を出す。③自分の手の勝率見積もり(アウツ×4/×2、またはショーダウンでの勝ち目)と比べる。勝率が値札を上回ればコールは黒字、下回れば赤字——原理はこれだけです。
実例をひとつ。ターン、ポット30bbで相手が20bb(66%)。あなたはOESD(8アウツ、×2で約16%)。必要勝率は補間で約28%——16%では大きく足りず、素のオッズではフォールドです。ただしここで最後の補正が入ります。スタックがまだ80bb残っていて、ストレート完成時に平均20bb追加で取れる読みなら、実質の取り分は分母に乗る(インプライドオッズ、節6)。それでも28%と16%の差は大きく、「完成が丸見えでない・相手が上位で払う」という具体的な根拠が2つ以上ないとコールは正当化できません。値札との差が大きいほど、埋めるべき「将来の入金」の説明責任は重くなる——この規律が、ドローで漏らすチップを止めます。付ける側と受ける側、同じ分数を両面から使えるようになったら、この技は完成です。
