GUIDE — 1-3
タイプ補正 完全解説
標準レンジ(1-1/1-2)は「平均的な相手」の話。でも実戦の相手は平均ではありません。相手のタイプ——TAG・LAG・Nit・Station——に応じて、 置いたレンジを歪ませる。ここから読みが「相手個別」に対応し始めます。
14タイプの座標 — タイトさ×アグレッシブさ
プレイスタイルは2軸で整理できます。参加の広さ(タイト↔ルース)と攻撃性(パッシブ↔アグレッシブ):
用語を先に押さえます——タイトは参加ハンドが少ないこと、ルースは多いこと。アグレッシブはベット・レイズで主導権を取りにいく傾向、パッシブはチェック・コールで受け身に回る傾向です。 この2軸を掛け合わせた四隅が、TAG・LAG・Nit・Stationの4タイプになります。
| タイプ | 参加 | 攻撃性 | 一言 |
|---|---|---|---|
| TAG | タイト | アグレッシブ | 堅実な強者(標準的) |
| LAG | ルース | アグレッシブ | 仕掛けまくる・ブラフ多い |
| Nit | 超タイト | パッシブ | 強い手しか出さない |
| Station | ルース | パッシブ | 降りない・コールし続ける |
2タイプ別のレンジ補正
| タイプ | レンジ補正 | 搾取の方向 |
|---|---|---|
| Nit | 標準よりタイト(ベット=ほぼ本物) | ブラフに降りる・バリューを疑う |
| LAG | 標準より広く弱い(ブラフ多い) | コール/4betで押し返す |
| Station | コールレンジが極端に広い | バリュー厚く・ブラフ減らす |
| TAG | ほぼ標準(GTO寄り) | 大きな搾取ポイントが少ない |
3サンプルサイズの規律
タイプ判断には十分な観察が必要です。 数ハンドで「この人はLAGだ」と決めつけると、たまたまの強い手をブラフと誤読する。
目安: 明確なタイプ判定には数十〜数百ハンド。それまでは母集団の標準(TAG寄り)を仮置きし、 証拠が積み上がってから補正を強めます(Bluff Hunter 3-3・Exploit Visionの領域)。
スタッツごとに収束の速さが違う点にも注意。 VPIPは毎ハンド発生するので30〜50ハンドで信頼できますが、3bet%は機会自体が少なく 200ハンド以上必要。「VPIP45は信じていいが、3bet12%はまだノイズかもしれない」—— 同じ画面の数字でも、裏にある試行回数で信頼度に差をつけて読みます。
4ひっかけは、この3つ
- 罠1: 少サンプルで決めつけ
5ハンドで「LAG」と断定して過剰反応。サンプルが貯まるまで標準を仮置き。
- 罠2: Nitにブラフキャッチ連発
Nitのベットはほぼ本物。ヒーローコールは資金流出。Nit相手は素直に降りる。
- 罠3: Stationにブラフ
降りない相手にブラフは無意味。バリューを厚くするのが正解。
5実戦でこう使う — 標準からの傾け
タイプ補正は、1-1/1-2で置いた標準レンジを「傾ける」作業です。 Nitなら全体をタイト方向に、LAGならルース方向に、Stationならコールレンジを膨らませる。
この補正が、以降の絞り込み(2-x)や結論(4-x)に効いてきます。 「同じCBでも、Nitのそれは強い、LAGのそれは弱い」——タイプはレンジ読み全体の色眼鏡です。
6スタッツでタイプを読む — VPIP / PFR / 3bet
オンラインではHUD、ライブでは観察で、タイプを数値で捉えられます。主要3スタッツの意味を押さえます。
| スタッツ | 意味 | 読み |
|---|---|---|
| VPIP | 自発的に参加した割合 | 高い=ルース、低い=タイト |
| PFR | プリフロップでレイズした割合 | VPIPとの差が攻撃性 |
| 3bet% | 3betの頻度 | 高い=アグロ、低い=バリュー特化 |
目安: 6maxの標準TAGはVPIP24 / PFR20 / 3bet8あたり。VPIPとPFRが大きく開く(例35/12)ならコールが多いパッシブ=Station寄り、両方低い(14/12)ならNit寄り、両方高く接近(30/27)ならLAG。数字の「差」がタイプを語ります。
7タイプは固定ではない — 動的な変化を読む
タイプ判定の落とし穴は「一度決めたら変えない」こと。同じ人でも状況で別人になります。
| きっかけ | 変化 |
|---|---|
| ティルト(負けが込む) | TAG→LAG化。ブラフ・無理コールが増える |
| 大勝ち中 | ルース化 or 守りに入る(人による) |
| ポジション | 同じ人でもBTNではLAG、UTGではNit |
| 時間帯・疲労 | 深夜はルース化しやすい |
特にポジションによる別人格は重要。「BTNでは40%開くのにUTGでは12%」という人は矛盾ではなく正常。ポジション込みでタイプを持ちます。
8タイプ×アクションの具体例 — 同じ3betが別の意味になる
「タイプはアクションの意味を書き換える」を、具体的な数字で確かめます。 BTNからの3betという同じアクションを、 4タイプそれぞれが取ったときのレンジを並べます。あなたはCOでAJsを持ってオープンした場面です。
| 3betの主 | 目安の幅 | 中身の読み | AJsでの対応 |
|---|---|---|---|
| Nit | 約3% | QQ+・AKの純バリュー。ブラフほぼゼロ | フォールド |
| TAG | 約8% | 標準分極(バリュー34+ブラフ8コンボ) | コール |
| LAG | 約13% | ブラフ枠が倍増。KJs・T9s等も混入 | コール〜4bet |
| Station | 稀 | パッシブが突然の攻撃=ほぼ本物 | フォールド |
同じ「BTN3bet」という文字列が、Nitなら3%(QQ+・AK≒34コンボ)、 LAGなら13%(170コンボ超)——在庫が5倍違います。 特に見逃せないのがStationの逆転現象。普段コールしかしないパッシブな相手が突然レイズしてきたら、 頻度の低さゆえにNitの3betと同等以上に強い。 「誰がやったか」を無視した瞬間、この5倍の差が全部読み違いになります。
9失敗例の解剖 — Stationに3バレルを撃ち切ったハンド
タイプ補正を持たない人の典型的な資金流出を再現します。6max・100bb。 あなたはCOから A♠Q♠ でオープン、 BBのStation(VPIP45/PFR8)がコール。 フロップ J♦ 7♣ 3♥ で空振りしCB——コール。 ターン 2♠ でセカンドバレル——コール。 リバー 5♦ で「ここまで来たら降ろすしかない」とポットサイズの3発目—— 相手は J♥8♥ の弱いトップペアで即コール。約60bbの流出です。
どこで間違えたか。最初の分岐はターンではなくプリフロップ直後です。 VPIP45/PFR8——参加の8割をコールで済ませる数字を見た時点で、 「この相手はワンペア以下でも降りない」という補正が入るべきでした。 ブラフの成立条件は「相手のレンジに降りられる手が十分あり、実際に降りる」こと。 Stationのコールレンジは弱い手を大量に含むのに、その弱い手が降りないのだから、 ブラフの前提が最初から崩れています。フロップCBまでは標準として、ターン以降の2発は純粋な捨て銭でした。
10よくある質問
Q. ライブでHUDがない時、何を観察すればいい?
最初の1周(6〜9ハンド)で「参加率」と「参加の仕方」だけ数えます。3ハンドに1回以上入るならルース、レイズで入るかコールで入るかで攻撃性が分かる。自分が降りた後も卓を見続けて、ショーダウンされたハンドの中身とその人の途中のアクションを結びつけるのが、最速のプロファイリングです。
Q. TAGだと思っていた相手が急にブラフを見せた。判定を変えるべき?
1回のショーダウンで座標を大きく動かすのは早計です。TAGもバランスのためにブラフは撃ちます。更新すべきは「ブラフを見せた直後の数ハンド」——ブラフがバレた直後はイメージ回復のためタイトに振れる人が多い、という短期の傾きです。長期の座標は数十ハンド単位で、短期の傾きはハンド単位で、二層で持ちます。
Q. 自分のタイプも相手に読まれているのでは?
読まれています。観察力のある相手には、あなたの直近のイメージが尤度として使われる。タイトに見られている時はブラフが通りやすく、ルースに見られている時はバリューが払われやすい——つまり「読まれている」こと自体が武器になります。自分の直近10ハンドの見え方を1ラベルで持っておくと、それを逆手に取る判断ができます。
Q. 4タイプのどれにも当てはまらない相手は?
4タイプは座標軸の四隅で、実際の相手は中間に分布します。無理に1つへ分類せず、「参加はやや広い・攻撃性は標準」のように2軸の位置で持てば十分。分類の目的はラベル貼りではなく、標準レンジをどちらへ何割傾けるかの係数を決めることです——軸上の位置さえ読めれば機能します。
Q. 補正は具体的に何%くらい動かせばいい?
目安として、確信度の低いうちは標準から±2〜3%(1段階)、数十ハンドの証拠が揃ったら±5〜10%(2段階)まで。例えばBTNオープン標準45%を、ルースの証拠が固まった相手には55〜60%に置き直す。一度に大きく動かさず、証拠が増えるたびに刻んで動かすほうが、誤読したときの傷が浅く済みます。
Q. タイプ補正とGTO、どちらを優先すべき?
情報がないうちはGTO寄りの標準(TAG想定)が守りの構え、証拠が揃うほど搾取(タイプ補正)へ踏み込むのが攻めの構えです。相手が補正に気づいて対応してくる上級者なら標準へ戻す。「標準を知っているから、どれだけ離れているかが分かる」——補正の腕は標準の理解に比例します。
112本目のシナリオ — トーナメントではタイプの意味が変わる
ここまでの補正はキャッシュゲームが前提でした。同じ4タイプでも、トーナメント(MTT)では読み替えが必要になります。 チップに「生存」という価値が上乗せされるからです。
具体例で見ます。バブル直前(あと2人飛べば全員入賞)、ブラインド1000/2000、 相手は25bbのミドルスタック。普段VPIP30のルースな相手が、この局面では10ハンド連続フォールド——これはタイプが変わったのではなく、ICM圧力(飛びの損失がチップの期待値を上回る状態)が 全員を一時的にNit化させているだけです。バブルが弾けた瞬間、同じ相手は元のルースに戻ります。
逆に、ビッグスタックのLAGはバブルでさらにLAG化します。 誰も飛びたくないのを知っていて、降りるしかない中間スタックからブラインドを毟り続けられるからです。 つまりMTTのタイプ補正は「本人の性格 × スタック × 局面の圧力」の三重掛け。 キャッシュの座標をそのまま持ち込むと、バブルの全員Nit化を「今日はタイトな卓だ」と誤読し、 搾取のチャンス(スチール頻度を上げる)を丸ごと見逃します。
12上達のコツ
🎯 練習の進め方
- ・座席に着いたら全員を暫定「TAG(標準)」で置く。証拠が貯まるまで標準からの傾けは小さく
- ・暗記すべき2大鉄則——「Nitのベットは信じて降りる」「Stationにブラフを撃たない」。この2つだけで資金流出の大半が止まる
- ・スタッツは差で読む——VPIP−PFRが大きい=パッシブ(Station寄り)、両方低い=Nit、両方高く接近=LAG
- ・昇格目安: 4タイプの補正方向を即答でき、少サンプルで決めつけない規律がついたら、絞り込み 2-x へ
13一歩深く — タイプ補正は『尤度』をいじる操作
レンジ読みをベイズ推論として見ると、標準レンジが事前分布、タイプ補正は尤度(そのタイプがそのアクションを取る確率)の調整です。 「Nitがベット」という事象は、Nitという尤度の下ではほぼバリューを意味する——だから事後は強く本物へ寄る。 同じベットでも、LAGという尤度の下ではブラフの確率が跳ね上がる。タイプはアクションの意味を書き換える係数なのです。
そして最も見落とされるのがタイプの動的な変化。ティルト・疲労・ポジションで同じ人が別人格になる。 「BTNでは40%開くのにUTGでは12%」は矛盾ではなく正常——ポジション込みでタイプを持つのが正解です。 こうしたリアルタイムの傾き更新こそ、Exploit Vision(06)が専門に扱う搾取の技術。 タイプ補正は、GTOの標準(TAG想定)から相手個別の弱点へと降りていく最初の一歩です。
